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Chapter 1-0

『第五管制室で侵入者発見。各保安部隊、至急掃討に向かえ。警邏各隊は住民の避難路を確保せよ。繰り返す・・・』

「あちゃあ、あっさりバレちゃったか」

 小関は短く刈り上げた頭をかきながら、疾走する装甲車BRDM1めがけてビームライフルを放つ。全く予想していない方角からの攻撃を受けた装甲車は、シールドを張る間もなく車体の横に衝撃を受け、横転する。

「まだ爆破準備は整わないのかよ!」平尾はたまらず、管制室で作業をしている南雲サキに声をかける。
「無理を言わないで! あと二分持ちこたえて頂戴!」

『相手は五人だ! 火力はどれだけ使っても構わん! 管制室ごと吹き飛ばせ!』

 戦闘服に身を包んだサキの脳細胞には、敵の出す指示が直接流れ込む。一刻の猶予もない。早々に研究室を爆破しないことには、こちらが脱出するどころかここが”白き獅子団”の墓標となってしまうだろう。

 コントロールパネルでは、エイリアが精神を集中したまま、静かに爆破装置の起動コマンドを探す作業を続けている。エイリアの横では、エイリアとサキを護るためのサイコフィールドを張った和田隊長が、じっと管制室入り口の扉に向けて大口径ハンドレールガンを構えたまま動かない。

 守備に定評のある平尾は、小刻みに己の身体をワープさせながら敵の銃撃をかわし続けるが、避けるのに精一杯でほとんど敵の進撃を食い止められない。敵が平尾に神経を集中している間に、小関が落とす。そんないつもの作戦も、警戒の度を深めていたコロニーの保安部隊の前に苦戦を余儀なくされていた。

「まずい! ミサイル車両がお見えだ!」若い小関の声が上ずる。
「あんなのぶっ放すなんて、正気かっ? コロニーの外壁が破れるぜ!」
 和田が重い口ぶりでサキに指示する。「南雲、お前も暴れて来い」
「和田隊長! ハゲ! 本気?」サキは思わず声を上げる。
「ハゲは余計だ。さあ、行け!」
「了解」

 しょうがないわね。そう思いながらサキが管制室を飛び出すと、十字砲火の中を自在に飛び回る平尾が、自分の分身のようなデコイ(囮)を撒き散らしながら、低出力のハンドガンで応戦しているのが見える。まだ八十人は、いる。それに、七台の戦闘車両。敵兵士の何人かがサキの姿を確認すると、とっさに銃を構えた。

「遅いっ」

 サキが左手を一閃すると、青白い光が次々と不幸な兵士の身体を貫き、吹き上がる血しぶきとともにその場にゆっくりと倒れる。その直後、小関の放ったライフルに動力部を直撃された敵の指揮車PT-76が、オレンジ色の光を発して爆発した。

「サキ! 敵のスマートポッドを潰してくれっ! 早く!」小関はそう叫びながらビームライフルを敵の戦闘車両に叩き込む。敵のレーザー砲部隊がサキめがけて高密度レーザーを放つが、察知したサキが軽く二十メートルは飛び上がると、ふんっ、という気合とともに冷気の籠もった光を部隊に浴びせ、即死させる。

 通常は艦隊戦で用いられるべき巡航ミサイルSa-2”ガイドライン”を搭載したスマートポッドが、薄暗いコロニーの街路に入ってきたのをサキは空中から目視すると、精神を集中した。

「敵は半分以下になった! もう少しいける!」小関が叫ぶ。平尾の作ったデコイは作った端から銃撃に貫かれては消えていく。砲撃されて爆発した戦闘車両が周囲で応戦していた兵士たちをなぎ倒し、その暖かい死体の上に車両のかけらを降り注いだ。

「逝けぇぇいっ!」

 サキが左手を強く差し出すと、その手の先から一直線にスマートポッドへと太い光のラインを作り、ミサイルの推進部を貫く。ミサイルはその衝撃でスマートポッドから転がり落ち、赤い炎と真っ黒い煙を噴き上げた。

 さらにサキは残る兵士に向けて、容赦なく致死性の光を送り込んだ時、コロニー全体に響き渡るドーンという振動が足元に響いた。

「爆破に成功した!」平尾が叫ぶ。
「いったん管制室内に撤収する」
「了解」

 <力>を使い果たし、気を失ったエイリアを抱きかかえた和田のいる管制室に、サキが、平尾が続いて撤収してくる。

「小関はどうした」和田は小関に向けて意識を送る。
「小関! おい小関!」
 和田の張ったフィールドに入ったサキは、爆破完了と書かれたモニターを眺めたまま、息を整えた。
「あいつ、油断したな・・・」若くしてベテランの域に入りつつある平尾は、その端整な顔をやや歪めて管制室のドアに向け、その向こうにいるかも知れない小関に語りかけるように独語した。

 恐らくドアの向こうには兵士が充満して突入の機会を伺っているに違いない。エイリアの長い橙の髪を横たえたまま、和田は小関の所在について探り続けていた。サキも敵の突入に備え、ドアの方向へ神経を集中した。しばしの沈黙が管制室を覆う。

 全ての試みが徒労に終わろうとした矢先、室内に右肩を負傷した小関がテレポートで飛び込んできた。

「あいたたたた」小関は床にへたりこむ。「結構痛い。っていうか、かなり痛い」
「男がそんな泣き言を言わないの」サキは小関の左腕を掴むと、サイコフィールドの中へと引っ張り込む。
「痛い痛い痛い! もっと怪我人を大事に扱ってくれ」小関のやや細めの身体を包む戦闘服は、銃撃を受けた小関の右肩のところを赤く染めている。
「こんなんじゃ、また登録抹消二軍送りね」

 和田はにこりともせず小関をフィールドの中に入ったのを確認した時、エイリアがそっと瞳を開いた。

「あ・・・」
「気がついたか。よし、脱出するぞ」

 和田の頭部から放たれたサイコフィールドは、徐々に紫色の光の球体へと変化し、だんだんと回転しながら小さくなっていく。管制室に突入してきた敵兵は、目の前でテレポートしていく四人に向けて、敢然と銃撃を開始したが、その全ての銃弾は貫通し、管制室の制御コンピュータに突き刺さり、ただの鉄くずへと変えていった。

「研究データは我々”白き獅子団”がすべて頂いた。お見送りありがとう、宇宙コロニー・サウスコロナの諸君」

 ひょっとして、和田隊長はこの台詞が言いたいだけなんじゃないかしら。サキはそう思いながら、サウスコロナを後にした。

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