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Chapter 1-20.5

『故に、賢明な君主はその実態はともかく誰よりも愛される風貌が保たれるよう、努力しなければならない。いかにその本質が優れたものであり、国民のためになるようなものであったとしても、国民はその本質を探る前にその君主の威信ある風貌に心酔するのである。一時たりとも、君主として相応しい振る舞いと、それをならしめるに足る演出に腐心せよ。

 逆に、不徳の者であっても、その邪悪なる本質を覆い隠す風貌を持つなら、一時の栄光を勝ち取ることができる。最後に後悔の念を漏らすのが国民の側であったとしても、それは自業自得というものなのだ。歴史を紐解けば、当初は邪心の権化とも言える人物から始まり、そこで栄光を手にしたのち、国民からの信頼に応えるべく努力した結果名君となる場合すらあるのである。』

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「うお、すっげえ」シェルミーは顔いっぱいに喜びに満ちた笑顔を作ると、無造作に茶色いチョコパウダーがふりかけられた白いクリームの巨塔にかぶりついた。オレンジ色のコーンが二本、甘い香りを漂わせながらバニラアイスに刺さっており、盛られた円筒形の器は上品な彫り物が施されている。

「ちょっとシェルミー。ちゃんとスプーンを使って食べてよ」

 セシルは周囲の目を気にしながら、遠慮がちに抗議した。が、シェルミーはひんやりした器を手に、まるで与えられたものは何でも口に入れてしまう幼児が母親からぬいぐるみをもらったかのようにしゃぶりついている。

 東京第五階層麻布十番は、東京に住むものの中でも比較的裕福な層が好んで住まう居住商業地区である。第四階層より上で生活している都民はその食事の多くを効率的な固形食で賄っているのに対し、ここでは本来人間が口にしてきたあらゆるものが普通に手に入る。

 二人が入った店は、麻布十番の中でも千年以上の歴史を誇る老舗、ルノワールであり、別に薄給ではないセシルといえど弟のような年齢のシェルミーを連れて入るような店ではないのは良く知っている。ふかふかのエアソファー、手ごろな高さのデッキテーブル、落ち着いた白と灰色と木目調の内装、明るすぎず暗すぎない店内の照明、白銀に磨き上げられた食器、あらゆる店の調度品に相応しい立ち居振る舞いを身につけた客が入るべき店なのである。それでも、猥雑極まりない第四階層に行く気にはなれなかった。何となく、大統領補佐官という立場がそうさせたのかも知れない。

 そう思いつつも、見るからにだらしない服装に、負けず劣らず卑しい喰い方を実践してやまないシェルミーを連れて来たことを、いまさらになってセシルは後悔した。こんなことなら、職員食堂にでもしておけば良かった。

 やはりというか、ほかの利用客がこちらに寄せる視線は冷たい。その視線の冷たさとは裏腹に、セシルの顔は熱くなった。好きなダージリンティーの味を楽しめるような状態ではない。

「あー」シェルミーは突然叫んだ。店中の視線が一瞬にして集まる。
「どうしたの」
「一気に喰ったら頭がキンキンしてきた」

 セシルはがっくりきた。他の客からは密かな冷笑が漏れ伝わってくるようだ。それでも、ものの二分程度で山盛りのチョコレートパウダーパフェを食べ尽くし、さも満足そうな表情でシェルミーは口の周りをぺろぺろなめ回しながらセシルに顔を向けた。

「喰った喰った」
「シェルミー・・・口の周りにクリームがついてるわよ」セシルはナプキンを取ると、シェルミーの口をテーブル越しに拭いてやった。
「あんがと」

 シェルミーはそう答えながら、名残惜しげに見事に空っぽになった透明のガラス器を眺めている。そうする間もなく、妙齢のウェイトレスがやってきて「お済みですか」との声と共に空いた食器を下げに来る。「食べ終わったらさっさと帰れ」と言わんばかりだ。

「ね、そろそろ本題に入りたいんだけど」おずおずとセシルは声をかけた。
「本題、終わっちゃったよ」シェルミーは持っていかれたガラス器の方向を恨めしげに眺めた。セシルは胸の底から苛々し始めた。
「そうじゃないの。私が訊きたいこと」
「おー」
「おーじゃないわよ」
「ボクはこう見えても忙しいんだ。三十分後にはお散歩に出なくちゃいけないし」
「お散歩って、シェルミー、あなたが私を誘ったのよ」
 セシルが語気を強めると、ようやくシェルミーは座りなおした。「で、何を訊きたいんだっけ」
「おじいさんのこと」
『土橋じいさんのことかい』シェルミーはセシルの頭の中に直接問いかけた。
『大統領閣下が非常に土橋首相を警戒されているの』
『ふーん』
『ふーんじゃなくて。彼の具体的な狙いを詳しくお知りになりたいって仰っているわ』
『セシルー』
『なに?』
『テレパスの言葉が訛ってるよ。いなかものー』
『これは 尊 敬 語 なの!』
『わたたた、出力でっかい』シェルミーは頭を抱えた。
『あんまりからかわないで』

 店内は、再び落ち着いた空気に戻った。ほかの客からは、セシルとシェルミーが突然黙って二人でにらめっこしているようにしか見えない。

『一言で言うとー』
『言うと?』
『何も考えてない』シェルミーは澄まして答えた。
『あのね、シェルミー』
『事実なんだからしょうがないだろー』
『そうじゃなくて』いまにもセシルはシェルミーの首に手をかけんばかりだ。そんなセシルの心情を無視して、シェルミーはのんびりと思念を飛ばした。
『ただ、じいさんの周辺がやろうとしていることは知ってる』
『何をしようとしているの?』セシルは心持ち、身体を乗り出した。
『戦争を止めようとしている・・・って言うか』シェルミーは少し考えながら続ける。『戦争はしてもいいけど、人があんま死なねーようにしようとしてるな』
『どういうこと?』
『なんか、大統領とかいういかついおっさんが、人口を2割減らせと言ってただろ』
『ええ』
『その具体的な連邦法案があってさあ』
『改正食糧制限法』
『それは良く知らない。ただその法律では国民を管理する国家が、管理する国民の数を減らせ、という内容なんだと』
『そうね』
『じゃあ、管理する国民の数を減らしゃあいいのであって、別にぬっころす必要ないじゃん、ってことであって』
『それは法の趣旨と違うわ』
『でも、その改正なんとかってのは、連邦憲章とかいう名前の”人権の尊重”っていう、くっだらねー建前と矛盾してんだろ?』心なしか、シェルミーの瞳が輝く。
『それは・・・』
『なもんで、対象となる何千万人かを日本国が管理しねえほかのコロニーなり惑星に移せばそれで済むじゃんよ、と日本政府は考えているわけだ』
『じゃ、日本政府は、全く関係のない第三国に人員を移そうとしている?』
『そこまでは考えてないんじゃないかなー。とりあえず目先の戦争で死ぬ人数を何とか減らそうとしているだけで』

 セシルは溜息をついた。大統領の言うことも分かる。食糧生産やエネルギー産出量の劇的な増加が見込めない以上、持続可能な人口レベルまで落とさなければ人類が共倒れになるということを。

 一方で、人間が人間として生きる以上、その統治機構が人間を政策として殺すことは生半なことではできない。それなら、どこか地球や太陽系とは別の可能性のある星系に人間を送り出し、フロンティアを開拓することで対処しようというのが日本政府の考えなのだろうか。

 しかし、その方法論で取り組んできた日本政府プロジェクトは、『いたこ1号』、『いたこ2号』共に決してうまくいっているとは言いづらい。新しい開発星系の探索自体の成功率が低いうえに、仮に殖民が成功しても、開発星系が自律的成長を遂げる前から、地球連邦が不足した食糧などの資源を開発星系から吸い上げてしまうからだ。

 この人口確保と資源確保という微妙なバランスを取りながら統治しているのが大統領だとするならば、土橋首相が考えている人口保全の方策は結果として不毛な努力であるだけでなく、かえって人類の存続に対して障害となるものになる可能性すらある。

『なんだか・・・植民地時代とあまり変わらない話ね』
『しょうがないだろ、みんな生き残るために精一杯戦った結果こうなってるんだから』
『そうかも知れないわね』セシルはうなずいた。
『それもあって、とにかく探査船全部出せってことで、研修中の奴も全員今日中に太陽系の外に追い出すみたいだよ』
『それは条約違反だわ!』
『そんなことをボクに言われても知らないなー』シェルミーは肩をすくめた。『でも、例の法律の改正と戦争準備の国民説明とかで政府が忙殺されてるうちに、クリーク商会とかいう合法的犯罪組織がごり押しで話進めちゃったみたいだよ』

 シェルミーはぼんやり宮本のことを思い出していた。あいつもここを出て行っちゃうのかなあ。

『何故なの。何故なのかしら』
『んー』シェルミーはちょっと考えるように腕を組む。『まあ、日本政府の与り知らないところで探査船が出て、それがうまくいっても日本領になんねーから丁度いいやってことなんじゃないかなあ』
『土橋首相はそんなことを・・・』
『何度も言ったじゃん、あのじいさんは何も考えてないって。ただ人間を減らさなくて済む方法を考えれって指示出してるだけじゃないの?』
『信じられないわ。そんなことになっているなんて』
『参戦してない開発星系やコロニーに言いがかりつけて皆殺しにするほうがボクには信じられないけどね』

 セシルは考え込んだ。

 地球全体は、コンピュータによって制御されている。土橋首相が仮に何も考えていないにしても、それ以外の職員、あるいは政府高官、政治家が考え、実際に指示していることは、全て大統領あるいはモノリスのもとに情報としてもたらされているはずだ。

 シェルミーが説明する日本政府の意図もまた、何らかの具体的な指示として提示され、実行されていることであるとするならば、当然大統領の知るところとなる。しかし、その具体的内容は大統領のもとにもたらされないばかりか、確かにシェルミーが伝えた内容は一つひとつは造作ない話であったとしても一定の方向性を持った活動として整然と流れていっている。

 セシルが足しげく土橋首相の執務室に行って、それとなく土橋首相の思考をスキャンしても、そこには何の理知的な思考はなく、ただ人間としての種の記憶のような曖昧模糊とした霧状のイメージしか把握できない。人間はその科学の力を使って生命の領域に足を踏み入れてなお、その集団としての行動を制御するには至っていないということなのだろうか。

 考えに集中しているセシルの耳には、シェルミーがウェイトレスを呼び止めて伝えた「あ。モーニングパフェもうひとつねー」というオーダーは入らなかった。

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 松坂は、一人朝のニューメンフィスを歩いていた。

 部下を木星軌道上にある駆逐艦ジンターに避難させたあと、松坂はどうしても会っておきたい人物がいたのである。

 人気の絶えたクイーンズ大通りを抜けて、大きな市庁舎の面するクイーンズ・スクエアの前まで来ると、松坂は神経を集中した。人目も松坂を警戒する電波も放出されていないことを確認すると、松坂は慎重に閉店中のアノニマス・フィールド店内へとテレポートした。

 店内は、照明が落とされ、全ての商品が搬出されたあとだった。もぬけの殻というのはまさにこのことだな、と口の中で一人ごちた。広い店内の真ん中に配置された、白い螺旋階段を昇っていき、恐らくレジスターが置いてあったと思われるスタンドの裏側へと足を向ける。唯一、何もなくなったフロアの壁に貼ってある販売促進用と思われるポスターだけが、にこやかな女の子の表情で笑いかけて、この建物がかつてアノニマス・フィールドの店舗だったのだということを証明していた。

 松坂はスタンドの裏にある「プライベート:スタッフ専用」というカードが掲げられた扉の前ににじり寄ると、扉の裏側の様子を窺った。確認すると、松坂はそっとノブに手をかけ、扉を開けた。

「市長」
「君か」ハガァーは憔悴しきった顔つきで振り返った。その剽悍な顔のところどころには、今しがた降りかかったと思われる血しぶきがわずかに付着している。
「きっと、仕方がなかった、とあなたは言うでしょうね」
「うむ。これは仕方がないことなのだ」ハガァーはうなずいた。
「で、どうされるのです」松坂は、床に大きな血溜まりを作りながら息絶えているシンシアの死体を見下ろしながら訊ねた。

 ハガァーは答えず黙っている。松坂の鼻を、やや生臭い血の匂いが刺激した。いくらなんでも、こんなに出血させるなんて素人のやることだ、と思いながら、視線をシンシアに向けたままその端整な顔をハガァーに向けた。

「私は私の罪を償うつもりだ」
「いや、それは当方の望みではない。どうせ遅かれ早かれ、あなたは死ぬでしょうし」
「私は出来る限りのことはやってきたつもりだ」ハガァーもまた、シンシアに視線を落とした。
「彼女は、何故、我々を裏切ったのでしょう」
「優秀な執務官だった」ハガァーはぼそっと呟いた。「特に悩んでいる素振りも見せなかった」
「だからこそ、優秀だったのではないでしょうかね」松坂は皮肉のつもりで言おうとして、失敗した。
「これといって、具体的に誰かと交信したという形跡もない」
「しかし、確実に彼女は裏切った、それは何故かということです」
「それは私にも分からん」

 ハガァーは、不幸な秘書から目を離し松坂を見た。と同時に、松坂もハガァーを正面から見詰めた。数瞬、奇矯な沈黙が続いた後、それを破ったのは松坂だった。

「ひとつ、あなたに伺いたいことがあります」
「何でも」
「宮本幸司という人物をご存知ですか」
「知っている。ここ数日、ニューメンフィスに来た日本政府のプロジェクト要員だ」
「彼は、今日ここを発ちますね」
「発てればな」ハガァーはあごをしゃくった。「状況がそれを許さない可能性もある」

 ハガァーの端末が、呼び出し音と共に光り始めた。二人は、黙ってその端末に視線を向けるが、程なく鳴り止んだ。

「出なくていいのですか、市長」
「出る必要ないだろう。出ても、何も出来ないのだから」
「誰からです」
「港湾にいる検疫担当官からだ」

 まさか二人は、この通信で報告された「リッセンの不審な積荷」が大きく人類の行き先を変える内容だったとは気づいていなかっただろう。

「とりあえず、本件は失敗に終わった、そういうことですね」松坂は冷たくそう宣言すると、ハガァーは意外とさばさばとした口調で答えた。
「私としては可能な限りのことはしたつもりだ。蟻であっても、蟻なりの仕事は精一杯やった」
「問題はあなたの評価ではないのです、市長」
「あとは時間が解決してくれる。私は、そう願っているよ」
「最後は神頼みということですか」

 松坂が突き放したように言うや否や、閉鎖された店舗の外から警察が派手なサイレンを鳴らして取り囲もうとしている様子が窓の外から見える。

「どうやら、私にお迎えが来たみたいです」
「いや、私を逮捕しようとしているのかも知れんよ」市長もまた、窓の外へ目を向けて言った。
「あなたには、まだやってもらわなければならないことがあります。彼女はこの松坂が殺したと言いなさい、市長」
「松坂。何故、そこまで君は私に情をかける。私は君の希望には力及ばず応えられなかったのだ」

 外では青い対ESP装備をまとった特殊機動隊が列をなして突入の機会を伺っているようだ。『ESP能力、測定不能! レベル130キロまで一気に引き上げろ!』という指示を出す声が、室内にまで聞こえてくる。その声を鼻で笑うように松坂は顔を歪めると、改めて市長に向き直った。

「蟻には蟻の、生き様っていうのがあるんですよ」松坂の姿が、だんだんおぼろげになっていく。「目の前に象がいるのに、何故、蟻同士殺しあわなくてはならないのです」
「松坂」
「これが最後です。お気をつけて」

 松坂の姿が完全に空気と同化すると、室内の空気が薄くなったような感覚と共に、気配もろとも消え去った。階下からは、正面ショーウィンドウを突破する機動隊の足音が聴こえる。部屋に残されたハガァーは、足下の骸に視線を落とした。

「シンシア・・・」

 ハガァーの抱いた疑問は、消えることがなかった。

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 ほぼ時を同じくして、警察に囲まれた店があった。東京第五階層のルノワールである。ただし、警察が到着したときに当事者たちが話していた会話の深刻度は天と地ほどの開きがあった。

「待って! 待って! まだパフェが来るのに!」
「自業自得でしょう! 何で指名手配フラグが立ったままで街をうろうろしようとするのよ!」
「だって消したはずなんだもん!」

 ことここに至ってなお、シェルミーはパフェが来るのを待つといってソファーから立ち上がろうとしない。とはいえ、セシルは大統領秘書官である。警察を呼ばれるような人物と平然とお茶を飲んで無事で済むはずがない。

「きっと、他のお客さんが通報しちゃったんだわ」セシルは心配そうに外に目をやる。
「ボク有名人だもん」
「そういうレベルの話じゃないでしょ! ほら、警察がお店取り囲んじゃったじゃないの!」
「注文したパフェが・・・パフェが!!」シェルミーはいまにも泣き出しそうだが、セシルも同じかそれ以上泣きたい気分である。
「そんなことはいいから! 早く何とかしなさい!」
「えっ、外の奴ら殺っちゃっていいの?」
「何で東京で暴れるのよ! どこか違うところに消えなさいって言ってるの!」
「だって・・・」シェルミーは悲しそうな大きな瞳でセシルを見詰めている。
「またおごってあげるから! だから早くどこか行って!」
「本当?」

 大きなサイコガンとハンドガンを抱えた警官が、店の玄関から二人突っ込んでくる。もちろん客がまだ店内にいる以上は発砲はしないだろうが、それでも物騒なことといったらない。思わずセシルは両手を挙げたまま棒立ちになる。

 シェルミーは見た目こそ十歳かそこらの少年だが、最高級のエスパーにしてテロリストなのだ。警察のネットワークに侵入してはその指名手配フラグを消した上で繁華街を散歩したり、大統領府や官舎をうろつくのが日課である。サイバネティック社会の盲点を突いて平然と日常生活を送り、セシルもまた幾度となくデザートをおごらされ続けてきたが、今日ばかりはどうも良くないことになった。

『絶対おごってね。絶対だよ?』そうシェルミーは思念を飛ばしながら、その姿を消したのはその一秒も経たないうちだった。シェルミーの周囲の空気ごと、どこか別の空間へと飛んで行った。シェルミーのいた空間がわずかな風を起こす。

「何て言い訳すればいいんだろう・・・」

 これをどう切り抜けよう。セシルの頭の中にはそれしかない。次々と警官は突入し、こちらへ殺到してくる。大人しく両手を挙げたセシルの胸を、同時に二本の光が貫いた。

「あっ」

 何か巨大な力に突き飛ばされたように、セシルはその細い身体をのけぞらせる。
 頭から喫茶店の窓を大きな音を立てて突き破り、往来に倒れた。

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