Link TO the stars
Chapter 1-24
「何だ何だ! どうしたんだいったい!」

 藤本は答えず、ただひたすら加速ペダルを踏んでいる。表情は真剣そのものだ。

 スピードが出ているのは感覚で分かるが、目前のスクリーンに映し出された正面の星空は全く動かない。何か動くものでもあるかと目を凝らすものの、当然ながら画面の星々はどれとして動く気配もない。

 藤本はパネルを操作して、船体後方の映像を映し出した。

「これじゃ、何だか分からねえな・・・」
「わしも分からん。でもきっと何かありまっせ。大将、ズームしておくれやす」
「おしゃ」

 木星周辺の映像を収拾するべくズームすると、赤茶っぽい惑星が見えてきた。

「あれ? これ木星じゃないのか?」
「ああ、それは偏移や。逆ドップラーやな」
「かなり寄ったはずだが、状況が分からん」
「あらっ、こりゃまた・・・そんなアホな」
「ん? うわっ、まさか!」

--

『作戦開始五分前。隊員各自、戦闘配置につけ。繰り返す・・・』

 戦闘服に着替え終わったサキは、少しづつ精神を集中し始めた。帆足もまた、研究室の中でエイリアの精神を解放するために準備を整え、和田からの指示を待っていた。

「さぁて、そろそろなんじゃない?」

 グローブを締め直すと、サキは帆足を見た。帆足は肩をすくめている。サキは不思議と動じない帆足の態度が好きだった。エイリアはいつものようにちょこんと椅子に座り、静かに合図を待っている。

「エイリア。しっかりね」
「はい」エイリアは軽くうなずいた。

 研究室のスクリーンは和田の映像を着信した。

『準備は』
「整いました」サキは鋭く答える。
『合図まで待て』
「了解」

 恐らくほかの隊員も出撃の指令を待っている。和田の指示は短く的確だ。エイリアが精神をニューメンフィス管制に接続し、探査船十五番艦「第十五流星丸」の離陸を捕捉する。その後、和田を中心とする題一隊六名が第十五流星丸船内にテレポートし制圧する。平尾、サキによる第二隊、第三隊が、ニューメンフィスの軌道防衛隊ほか迎撃部隊を妨害し、その間に第十五流星丸を木星重力圏外に逃したあと、第二隊、第三隊は駆逐艦ジンターに撤収後、離脱する、という作戦だ。

 サキはニューメンフィスに置き去りになっている松坂が気がかりだった。しかし、松坂の力量を考えて、敢えて和田は放置しているのだろうと思っていた。

『精神回路を解放しろ』
「はいなっと」

 帆足が用意していた端末のコードを走らせると、駆逐艦ジンターの通信回路を経たエイリアの膨大な思念が周囲の磁場をかき乱し始めた。その間、駆逐艦ジンターのそれ以外の通信機能は制止されている。

「思念、10%解放」

 男性とも女性ともいえない不思議な声が、幾重にも重なって聴こえる。輻輳し、拡大し、共鳴しながら、エイリアの精神が波動となってニューメンフィスを覆っていく。

「25%解放」帆足は告げた。
「もうすぐ、来ます」エイリアはか細い声で伝えると、サキは緊張した。
「和田隊長! まもなくです!」
『和田隊、出撃準備』
「40%解放、通信妨害機能を出しますか?」
『待て』
「了解」
「待って・・・待って、みんな・・・」
「エイリア、どうしたの?」サキは訊いた。
「何か・・・暖かいものが」
「えっ、何、エイリア」
「とても、暖かい」
「50%解放、あ、あれ?」
『どうした』
「不可解です、思念が何かに吸収されています!」
『何だと』
「来る・・・でも、だめ・・・来ちゃだめ・・・」
「隊長、50%以上に上がりません!」

 その瞬間、けたたましい警報と共に、部屋に赤い非常灯が点灯した。

「何よ! どういうことなの!?」

 駆逐艦ジンターの機械音が異常を告げた。

『警告。艦内に異常発生。機関室Bブロックに侵入者発見。警告。艦内に・・・』

「侵入者!?」サキは立ち上がった。
『和田隊は通常通り任務を行う。平尾隊、南雲隊は侵入者を確認、排除せよ』
「了解!」

--

 サキは竹下、沼田ほか三名と合流した。

「機関室に向かうわよ!」
「了解!」

 六基のエンジンを持つ駆逐艦ジンターの機関室Bブロックは、その半数、三基のエンジンを収容する重要な部屋である。派手に暴れまわることは危険だ。一方で、木星でステルス機能を駆使して潜伏航行している駆逐艦ジンターを発見し、悟られることなく艦内に侵入できる人間など、そうはいない。

「恐らく、連邦のエスパー」

 もはや、暗黙の了解だった。平尾隊と協力して早急に排除したのち、速やかに作戦に戻らなくてはならない。鋭敏なサキの神経は侵入者がわずかに残した熱源を丹念に捜索してゆく。しかし、機関室は熱源の塊だ。侵入者の熱源の特定は容易ではない。熱を見ることができるサキの能力だけが頼りである。B機関管制室からつながる六つのエンジンルームのドアを南雲隊は一つひとつ開け、丁寧に機関室を調べてあげていく。

「あった」

 竹下が居心地悪そうに身じろぎする。機関室のひとつのドア際に、テレポートで侵入したときに残したと思われるわずかな熱源が空中を漂っているのをサキは発見して緊張した。そのかすかな熱源は、素早くドアの中へと入っていっている。間違いない。侵入者はこの中にいる。

 指で指示を出すと、ドアの両脇に三人づつ配置し、ドアの中の様子を窺ったが、いくら聞き耳を立てたところで機関室の轟音の中では分かるはずがない。テレポートで侵入することもできるが、部屋の中に出現したときにできるわずかな隙が命取りになりかねない。サキは咄嗟に突入を決めた。

 五秒前を意味する二本指を立てると、サキはひと思いに室内へ殺到した。

--

「おーおー、随分と派手な艦列だあ」

 吉永はメインスクリーンを見ながらスナックをほお張っていた。およそ四百隻の戦闘艦が宙域を広く取って布陣している。高速巡航艦名護を筆頭とする第二吉永艦隊は、一隻の脱落を出すことなくダハル・オーサ艦隊の支配宙域の間近までやってきた。

「ここらでいっちょ、ご挨拶しとくかなあ」

 吉永は艦隊オペレーターに指示を出すと、手近な艦隊長に接続するのを待った。程なくして、ナイト大佐と繋がった。

『よ、吉永少将』
「ぃょぅ」

 若干の驚きをもってメインスクリーンに表示されたナイト大佐は、ありふれた台詞を吉永に向かって吐いた。

『何故ここに?』
「ぃゃぁ、吉田艦隊が道中妨害活動にあって機能停止しててさあ」
『・・・だからといって、閣下はオーサ艦隊には合流できないと思いますよ』
「やだなあ、そんな気は毛頭ないって。ただ、道中の安全確認をしようと思って」
『それならいいのですが、閣下』
「そんな疑うなよ。別にいまここでドンパチやるわけじゃないでしょ?」
『まあ、それは・・・』
「とりあえず、道中の安全は確認致しました、っと。ちゃんと元帥にはそう伝えといてよ、ナイト大佐」
『それは確かに』ナイトはうざそうに瞬きをした。
「で、艦隊行程は?」
『オーサ艦隊は木星通過後、三隊に分かれ、本隊は造反開発星系の本拠惑星ロベルティに、寺内隊は天王星の叛乱拠点鎮圧に、マッケンジー隊は遊撃として木星圏内に遊弋の予定です』
「なるほど。じゃ、以後はマッケンジー隊と連絡を取ればいいわけね」
『我が艦隊はもうすぐ準光速航行に移るので。それでは』

 吉永は一方的に通信を切られてしまった。

「あらら。挨拶も抜きで。せっかちだねえ」吉永は溜息をついた。「でもまあ、だいたいの状態は分かったからよしとするか」

 そう吉永が独り言を言うや言わずやの間に、ナイト隊を含むオーサ本隊は、木星を超えてロベルティへと航行していってしまった。どうやら、出立寸前だったようだ。

「あーあ、ロベルティも災難だね。造反なんかする気も無かったろうに」

 司令官デスクの上で頬づえを吉永はつくと、あれこれと考えを巡らし始めた。ふと気づくと、吉永は軍帽を取り、頭をかき始めた。周囲に聞こえよがしに大きな独り言を吐く。

「や、参ったなあ、吉田艦隊の救護隊の中に軍医を詰めた補給艦を置いてくるの、忘れちゃったよ。まあいいか」

--

 俺がメインスクリーンで見た光景は、驚きを超えたものだった。

「ニューメンフィスが、攻撃されとる」

 さすがの藤本も、呆気に取られている。たいした防衛体制も持っていないであろうニューメンフィスの壁面に、幾筋もの光が打ち込まれ、漏れ出た空気に引火したと思われるわずかな爆発と、炸裂したミサイルが破壊した残骸とが巻き上がっているのが見える。宇宙空間である以上、派手な爆発があるわけではないが、小さな白い光の点が、綺麗な列を作って波状攻撃を繰り出しているのははっきりと分かる。

「あかんで。ありゃ助からん」
「何故だ。ニューメンフィスは日本領、国連側のはずだろ」
「わしが知るかい。逃げるに如かずや」
「ニューメンフィスが・・・落ちる」

 あっという間の出来事だった。ニューメンフィスはものの数分で解体されてしまったように見えた。

「あっちゃちゃちゃ、あかん、こっちに何か来るで!」レーダーに映った赤い点が、少しづつではあるが確実にこちらへ向かっているのが見えた。
「やばい、さっさと逃げろ藤本!」
「はいな!」

 漁船で逃げ切れるとも思えないが、もはや藤本の腕を信じる他、方法はない。祈るような気持ちで、俺は背もたれに頭をつけると、大きく息を吐いた。

--

 サキはB機関管制室から室内に突入し、周囲を素早く観察した。サキの身体は青白い気に包まれ、完全な戦闘態勢に入っている。

「南雲隊長。誰もいないようです」沼田は言った。
「おかしい。そんなはずは」

 サキは、目を細め、熱源を追った。突入した南雲隊の熱源を極力無視し、目を凝らす。天井には、破壊された監視センサーがむき出しの銅線を露わにしていた。間違いない、ここに侵入したはずだ。部屋は狭い。どこかに必ず手がかりを残しているだろう。

 そして、侵入者の熱源を発見し、その軌跡を追った。奇妙な規則性を持った熱源は壁沿いに伝っているのを見て取ったサキは、その規則性とは文字を意味するのに気づいた。

「・・・バーカ・・・」

 眉毛を吊り上げたサキの血圧が急上昇する。

「やられたっ! 戻るぞ!」

 サキは身を翻して、部屋を出ようとした。と、そのとき先に部屋を出た竹下が、脇腹に強烈なエネルギーを受けて血しぶきと共に吹き飛んだ。

「な!?」

 一瞬のうちに、竹下の姿は視界から消えた。侵入者は、ドアの向こうにいる。狭いエンジンルームにサキら五人は追い込まれた格好だ。

「ち、攻守逆転、か」

 サキは、平尾隊、あるいは和田が来るのを待つか、イチかバチかで突出するかの決断を迫られる。その目前を、一人の男が立ち塞がった。

--

 果たして、吉永の予感は的中した。

 木星重力圏内が索敵範囲内に入るや、血生臭い点の動きがレーダーに捉えられたのである。吉永はオペレーターを呼んだ。

「あー、そこのオペレーター。君な、君」
「はっ」
「君には鼻の穴が二つある。そうだね」
「は、はあ」
「右の穴からは長い鼻毛が顔を出し、左の穴からはいまにもこぼれ落ちそうな大きな鼻くそが入っている」
「え?」
「いま確認しなくていいよ。例えば、の話だ。で、まず手をつけるとしたらどっちだと思う?」
「は、え、ええと」
「もちろん鼻くそだ。鼻毛は別に害を為さないし、今すぐ抜き去らなければならないというような緊急の代物ではない。暇なときに、ゆっくりと切ればいいんだ」
「はあ」
「しかし、鼻くそは一時を争う。奥に入って喉に回られたら不快だし、いつ飛び出して食事に落ちるか分からんからな。だから、まず鼻くそを取り除くべきであると俺は思う」吉永は得心したように言った。
「あの」真意を図りかねたオペレーターが上目遣いに吉永を見ている。
「そういうわけだ。なので、まず君はこの攻撃されているニューメンフィスまでの航路を確定してくれたまえ」
「りょ、了解」

 吉永は腕組みしながら、思案していた。最新鋭の高速巡航艦に移乗したはいいものの、この艦の食事の献立がどうであるか、にわかに不安になってきたのである。

 吉永が晩飯の心配をしている間、吉永艦隊は木星軌道上まで行軍してきた。目と鼻の先には戦闘宙域が設定され、地球連邦軍による一方的な虐殺が行われている。このままではニューメンフィスは助からない。吉永は頭をかいた。

「そこのオペレーター君」
「はっ」
「あの攻撃している艦隊は誰?」
「マッケンジー准将の艦隊と思われます、閣下」
「繋いで」
「了解」

 その間にも、半壊したニューメンフィスに向けて次々とミサイルが打ち込まれ、命中するごとに飛び散る破片は数十、数百の命が犠牲となり宇宙空間に散っていっていることを意味した。一刻を争う。吉永は、司令官デスクの前を慌しく行ったり来たりしてマッケンジー隊との連絡が開通するのを待ったが、一向にその気配はなかった。

「うーん、何だろ。しょうがない、戦闘艦船各員に告ぐ!」

 突然、吉永が全艦に向けて指令をスクリーンに出したものだから、各艦の指令ブリッジは騒然とした。しかも、その吉永の指令の内容にまたたまげた。

「戦闘艦船は全艦左舷回頭45度。マッケンジー艦隊を狙い展開せよ」

 マッケンジー艦隊は六十隻の戦闘艦からなるオーサ艦隊直轄部隊である。急造の吉永艦隊の少なくとも十倍は戦闘力のある陣容で、しかも目下何らかの戦闘指示を受けての正規の軍事活動である可能性が高い。

 一方で、予備艦隊をかき集めて作った吉永艦隊の半分は軍医や補給物資を満載した補給艦である。まともにぶつかってはひとたまりもない。それでも、吉永艦隊はゆっくりとした挙動でマッケンジー艦隊に向け砲身を向けると準戦闘体勢へと移行した。

「もうちっと、きびきびとした動きは取れないのかね。取れないんだろうけどさあ」

 吉永は独語した。

 しかし、突然降って湧いたような吉永艦隊が、自艦隊に向けて臨戦態勢に入ったのを見るや、マッケンジー艦隊はニューメンフィスへの攻撃を中断した。一部艦船は吉永艦隊に向けて回頭し、あるいはほかの艦隊は攻撃の続行指示を待っているのか依然としてニューメンフィスを向いたままだ。一瞬、戦闘宙域は凍りついたようにその動きを止めた。

 あっさり攻撃しちゃえば良かったかなあ、と吉永は強く反省した。しかし、物事には順序というものがある。手順を間違っては詰まない詰め将棋であり、吉永は手順を間違っていることを確信した。この将棋は詰まなくていいのである。

「か、閣下、何をされます」思わぬ事態に直面したオペレーターの声が上ずっている。その声の緊張感とはかなり隔たりのあるのんびりとした口調で、吉永は指示した。
「まあいいから。緊急通信を先方の艦隊に繋いじゃって」
「りょ、了解」
「あー、あとお前。補給艦をニューメンフィスへ。救護ポッドとか一杯積んでるだろ。吉田艦隊救助向けに用意しといたやつ。あれ、ありったけニューメンフィスに投げてやって」
「了解・・・」オペレーターは各艦に指示を投げる。

 ことここに及んで、吉永艦隊の士官たちは、吉永の意図していたことを理解し、能動的に動き始めた。

「通信回線、オープン」
『あ〜、あ〜、オホン。本日は晴天なり、本日は晴天なり〜。小職は〜、第何艦隊だか知らないが〜、吉永艦隊の司令官〜、吉永権兵衛少将であ〜る』

 マッケンジー艦隊は予想していなかった変な味方の変な現れ方に度肝を抜かれたのか、特に何の反応をするでもなくじっと待機している。

『当艦隊はぁ〜、月面基地から出発することだいたい四時間ぐらい〜、制圧宙域の警〜備、ならびに被災艦隊〜、または〜、被災宙域の救護を〜任務としているところであり〜』

 妙に間延びをした対敵警告をしている吉永をよそに、吉永救護隊補給艦十隻はこっそりニューメンフィスの附近宙域へと接近していた。

『いま〜、我が艦隊の目前にぃ〜、善良なる〜日本国の領有するところのぉ〜、宇宙コロニ〜、ニュ〜メンフィスの〜、その被災を認め〜、これより救助する〜活動を〜国連憲章及び〜国連軍軍規に則り〜、優先して〜』
『あー、うるさい! その話し方をやめい!』

 メインスクリーンにはジョージ・マッケンジー准将が現れた。ダハル・オーサ元帥率いる艦隊では親衛隊と言われ、鉄壁の守備と抜群の破壊力を誇る勇猛果敢な名将との呼び声も高い男であった。まさに軍人たる堂々たる体格と、目鼻立ちのはっきりした顔立ちである。

『お、これは、マッケンジー准将』
『吉永少将。いったい何の真似だ、これは』
『何って・・・救護』
『いま軍事活動中だ! 何で我々の軍事行動の対象をお前たちが救助しているのだ!』
『ねえ、マッケンジー』
『何だ。まどろっこしい。はっきりと言え』
『ニューメンフィスってさ、軍事攻略対象になってんの?』
『そうだ』
『何で?』吉永は目が点、といった表情だ。
『それは小職の知るところではない』

 明らかにマッケンジーは苛々しているように見える。何だかゴリラみたいだ、とかねがね吉永は思っていた。

『こっちには、ニューメンフィスが攻略対象になっているなんてこれっぽっちも流れてきてないぞ』
『それは前線指揮官でなければ伝えられることはないだろう』
『でもここは日本領だ。日本領宙域が前線なはずがないのだから、軍規にある通り全軍に対する通知がないと変だろ?』

 吉永は、つとめてゆっくりと喋った。また、ゆっくりと話すことで、マッケンジーがこの問題を理解するだろうと言うことを期待していた。残念ながら、マッケンジーはその軍事的才能とは裏腹に、決して論理的思考能力に長けたタイプではなかったのである。攻撃をやめろ、というと逆ギレしてかえって攻撃しかねない。だから、マッケンジーが考えて迷ってしまうように、吉永は懇々と説明して時間を稼げるだけ稼ごうと思ったのである。

『しかし、小職のところに下された命令はニューメンフィス攻略である』
『それは誰が命じたのかね』
『オーサ元帥から命じられた。従って絶対なのだ。叛乱軍と通じている兆しがあるとの報告があったとの附帯情報もある』
『叛乱軍と通じてたってのは、ニューメンフィスの住人全員ってわけじゃないんだろ? 日本政府の了承でも受けたのか?』
『日本政府の了承なら、ある』
『・・・ほへ?』またしても吉永の目は点になった。
『破壊もやむなし、という回答は正式に日本政府より国連に提示されている。それでも、まだ卿は文句があるのかね』
『あんまりない』
『何だ、その微妙な言い回しは!』

 マズい。明らかにマッケンジーは苛々し始めている。どうにかして、別の説得方法を考えなければ。吉永は考えた。

『なあ、マッケンジー』
『何かほかに言いたいことでもあるのか』
『お前の艦隊、対ESP装備は?』
『たかがコロニーひとつ落とすのに、稼動させる必要はないだろう』
『いまさあ、吉田艦隊を拾ってきたんだけどさ』
『それがどうした』
『どーも、どっかのエスパーが機能停止させちゃったっぽいんだよね』
『何だと』マッケンジーは眉をひそめた。
『しかも、アステロイド帯の手前で木星に向け北上中』
『バカな。そんな話は信じぬ』
『まあ、そう言わずに』吉永はつとめて穏やかに答えた。しかし、やはりマッケンジーの感情の沸点は低かった。
『やかましい。卿との話もこれまでだ。軍令妨害のかどで後で訴え出てやるからな。攻撃を続行するぞ!』
『な、待てよマッケンジー。おーい』

 マッケンジーの姿はスクリーンから消えた。あちゃー、通信を切られてしまった。吉永は軍帽を取ると、頭をかき回した。そして、レーダーを見て補給艦で構成された救援隊がニューメンフィス周辺に間もなく到着しそうなことを確認すると、そっとその弛んだ頬を笑みで満たした。

--

 ドア口に現れた少年は、気さくにサキへ声をかけた。

「やあ、サキ。久しぶりだね。元気?」
「貴様! シェルミー! 何故舞い戻ってきた!」

 サキは吠えると同時にその腕からビームを素早く放ったが、シェルミーは余裕でかわすと向こうにあった機関装置にビームが当たり、火花を散らした。

「し、しまった」

 エンジンは幸いにして軽い損傷を負っただけであった。しかし、こちらからの攻撃は外せないことを意味する。

「やろ、シェルミー!」
「やめろ! 渡辺待て!」サキの制止を振り切って部屋から、まだ若い渡辺が突出する。その若さの代償は高くついた。渡辺の首が、シェルミーの正確無比な一撃によって吹き飛ばされたのは、その直後のことだった。首から切り離された胴体は、ただの戦闘服に包まれた肉袋となって、前のめりに斃れた。

「完全にはめられた」

 部屋の向こうでは獰猛なシェルミーが待ち受けている。司令室あたりにテレポートして体勢を立て直すことも頭をよぎったが、その間にエンジンを爆破でもされたら”白き獅子団”は未来を失う。「こうなったら、全員で出るしか、ない」

 目の前で二人の隊員を一瞬で倒された残りの三人は戦慄で顔がこわばっている。「ここは私がシールドを張って出る。私の後ろをついて、エンジンに当たらないように攻撃して頂戴」
「・・・了解」残された隊員は唾を飲み込んだ。

 サキがドアの外の様子を窺う。呼吸を整えて、サキは精神シールドを張り一気にドアの外に大きく転がり出た。

「いくぞ!」

 サキの目の前には誰もいない。半屈の体勢のまま、周囲を見渡すと、壁に叩きつけられ絶息している竹下の上半身が鮮血を滴らせながら転がっているだけだ。一緒に突出するはずの部下は一人も見えない。

「なぜ誰もついてこない!」

 サキは慌てて部屋に戻ろうとする。視界に入ったのはシェルミーに蹴り倒されて床に突っ伏している三人の部下だった。サキの突入のわずかな隙に倒されたのだ。駆け寄ろうとした矢先、ドアの影から凄まじいスピードで何かが飛び出してくる。

「うおうっ」サキの数センチ先には、凶暴なシェルミーの眼が野獣のように凝視したまま止まった。それでも、サキはしっかりとシールドで攻撃を捉えた。捉えたはずだったが、サキの能力を、それは上回っていた。シールドが防いだはずのその強烈な衝撃は、数瞬のうちにメリメリとサキの防御をへし曲げていく。

「あれ、腕を上げたね、サキ」
「くっ、この・・・」
「プレゼント、持ってきたんだ。おりゃ」

 シェルミーの斬撃は、その気合とともにサキのシールドをいとも簡単に破るとサキの下腹部を直撃した。

「ぐあああっ」

 サキの下腹の辺りから右脇腹にかけての打撃を受けたサキは堪えきれずに打ち上げられ、天井に背中を打ちつけられ、床に叩きつけられた。それでもなおサキは床で一回転すると、壁を背に体勢を整える。その視界に、シェルミーはいない。

「えへへ、さすがに簡単には壊れないね、サキ」どこからか、声がする。
「貴様・・・」
「ボクは忘れないよ。君たちに棄てられたことを、ね」
「・・・どこにいる、シェルミー」
「ここ」

 サキの真上から急襲したシェルミーの肘が、オーラに包まれたままサキの背中を強打する。まるで木の人形が押し倒されるように、サキは強化鋼板の床へ頭から突っ込んだ。一瞬、サキの意識が飛ぶ。うつ伏せのまま、数メートル擦り付けられて、止まった。

 何とか片膝をついたサキは腹を押さえながら、息を飲み込んだ。「強すぎる・・・」口の中を切ったのか、塩っぽい味覚が満ちる。普通のエスパーなら即死だ。さしものサキでさえも、反撃の糸口さえ見えない。朦朧としながらも、目で敵の姿を追う。

 またしてもサキの視界にはシェルミーはいない。殺すのであれば、次の瞬間でもシェルミーはサキを始末できるはずだ。完全に遊ばれている。しかし、わずかでも時間を稼いで救援を待たなければならない。

「シェルミー! 狙いは何なの!?」

 管制室の真ん中でサキは訊ねる。返事は横から来た。攻撃は予見された。サキはシールドを張り、辛うじて直撃は防いだ。だが、直撃を防いだだけだった。シェルミーの拳から放たれた光線は、シールドを突き破りサキの左脇を痛打する。今度は弓なりのまま、ドア横の壁にサキは叩きつけられた。

 機関室は変わらずゴウンゴウンという音のエンジン稼動音に満たされている。音でシェルミーの位置を確認することはできない。早く、和田隊長、来て。一瞬のうちに全ての部下を失って、サキは急速にその戦意を喪失しつつあった。痛みと恐怖で、サキの奥歯がガチガチと音を立て始める。

 いっそテレポートで司令室に、と決意し、サキは飛ぼうとした。しかし、飛べない。

「ブロックされてる・・・」

 半歩づつ、機関管制室から司令部へ続くドアへ向けて後ずさるサキの耳元に、シェルミーはふうっ、と息を吹きかけた。たじろぐサキを掴み上げ、小柄なシェルミーとは思えない強靭な腕力でねじ伏せる。

「うああっ」

 右腕と顔をシェルミーの腕で締め上げられ、サキは悲鳴を上げた。うつ伏せのままロックアップされた右肘が破壊される音が、激痛と共に骨伝いに聴こえる。

「こ、殺せ・・・殺せ!」
「うん、殺すよ。もうすぐ」シェルミーの口は耳の間近にある。
「ぐふっ、殺せ」
「そんなことより、少しお話しようよ」
「う、ぐっ」
「サキって、いつも一人ぼっちだったよね。覚えてる?」
「何を」
「お姉ちゃんがいて、ボクがいて、いつも寂しそうにこっちを見てた。そんなサキを、友だちにしたのはお姉ちゃん」

 首の骨が、きしむ音がする。意識が遠くなっていく。

「はじめて一緒に遊んだ鉱山、もうなくなっちゃったんだよね」

 シェルミーはぐいとサキを抱き起こした。まるで、枕を取り上げるかのように。

「あの頃・・・ボク、とっても楽しかったな。お姉ちゃんがいて、サキがいて、一緒に天王星の廃墟コロニーで鬼ごっこした」
「う・・・」
「サキが一番、のろまだった。置いていかないで、って泣いてたの、覚えてるよね?」

 サキは左手でシェルミーの腕を握った。弱々しく。

「わ、サキ、口から血が出てる。汚いなあ」シェルミーは右手でサキの脇腹を数度殴った。サキはもう声にならない呻きを漏らすだけだった。目を閉じ、その瞼から涙がこぼれ出る。恐怖と激痛が、サキを支配した。

「ねえ、サキ。ずっと嫌いだったんだ。会ったときから。ほんとだよ。でも、そういうとお姉ちゃんが悲しむから、言わなかったの」シェルミーは片頬で軽く笑った。「サキも、ボクのこと、ほんとは嫌いだったんだよね」
「・・・う」
「ん? なぁに?」

 サキが問いに答える直前、反対側のドアから重厚な声が機関管制室に響いた。「南雲を離せ、シェルミー」

--

「くだらん邪魔が入った。だが構わん。攻撃続行の指示を各艦に」
「了解」

 マッケンジーは苛つく衝動を抑えつつも攻撃を続行しようとした。

「閣下。吉永少将から通信が入っておりますが」
「無視しろ」マッケンジーは吐き棄てるように言った。

 マッケンジーにとって、吉永は艦隊保守の師匠であった。保守とは、艦隊の戦闘継続能力を決定する極めて重要な機能であり、かつては吉永はレギュラー保守としてダハル・オーサ艦隊の要であった。だが、艦隊運用にブレークスルーが到来すると、吉永の座をマッケンジーは一気に奪っていった。

 と同時に、天才肌のマッケンジーは、同じ天才肌の吉永を激しく嫌っていた。戦果を重ねるマッケンジーは、吉永の気分屋的性格を疎ましく思っていた。通常であれば、同じ保守として役割を分担するものであるが、マッケンジーはレギュラー保守の座を奪うと共に吉永を閑職へと追いやっていった。そして、マッケンジーは艦隊戦ではなくてはならないポジションを磐石とし、各地を転戦した。

 今回、マッケンジーにとって初めての別働隊の指揮となる。オーサ元帥は、マッケンジーの将来を嘱望しつつも、なお「まだ大将の器ではない」と判断し、様々な経験を踏ませようとしていた。それが、いまのマッケンジーにとっての不満でもある。

「俺を、何故認めない」

 名保守と謳われ、連邦軍だけでなく全人類から声望を集めるマッケンジーであったが、オーサ元帥はなかなか大艦隊指令としてマッケンジーを起用しようとしない。そして今回、初めての艦隊独自運用の機会が訪れたが、それはニューメンフィス奇襲、しかも反撃能力をろくに持たない攻撃対象を破壊せよ、という命令だったのだ。マッケンジーの不快感は否応にも高まった。

 そこにきて、降って湧いた吉永艦隊の意味不明のコロニー救援である。これで苛々するなというのはマッケンジーにとって無理な注文であった。

「絶対に、絶対に吉永を軍法裁判にかけてやる」

 そう独語するマッケンジーだったが、不機嫌そうなマッケンジーにおずおずとオペレーターが指示を求めた。

「閣下。なんだか様子がヘンです」
「手間取るな。さっさとコロニーを破壊、解体して本隊に合流するのだ」
「いや、それが、各艦に宛てた指令が届いていない模様です」
「何だと」
「妨害電波か何か、とにかく指令を受領したという返信が来ません」
「まさか」

 吉永か。艦隊レーダーは、マッケンジー艦隊が攻撃を開始していないことを如実に示している。その一方で、吉永救援隊は着々とニューメンフィスに向けた救援ポッドから住民を救出している様を映し出していた。

「ふざけるな。吉永艦隊を呼び出せ!」

 マッケンジーは吉永を呼び出そうとした。一方で、さすがに連邦予備艦隊である吉永が救援しているところを攻撃してしまうわけにもいかず、攻撃指示を取り下げた。その指示さえも、どうやら各艦船に行き渡っていないようだ。マッケンジー艦隊は、完全に麻痺していた。

 そのマッケンジーの怒りが頂点に達したのは「吉永艦隊、当艦からの通信接続を拒否」という返答がオペレーターからもたらされたことによる。

「馬鹿野郎。いったい貴様は何年軍人やってるのだ!」
「申し訳ございません、閣下」
「貴様らともども軍務不精励を戦後に申し立てるからな! 覚悟しておけ!」

 マッケンジーはやり場のない怒りを不運な部下たちに対してぶちまけると、自らオペレーターから端末を奪い、吉永艦隊に攻撃対象の救援をいますぐやめるよう最後通達しようとした。

「おい、吉永! 吉永はいるか! これは最後通達だ! 即座に攻撃対象宙域から救援隊を撤兵させろ!」
『残念ながら、私は吉永とやらではありませんね』

 映像は出ないが返答の声の主はまるで少年のように若く、歌うような声色だった。

「誰だ貴様は! 艦隊長通信を傍受するとは何事だ!」
『名乗るような者ではありませんが、艦隊通信はジャックさせて頂きました』

 丁寧な語り口だが驚くべき内容を聞かされ、マッケンジーは呆然とした。

「何だと。どういうことだ」
『さすがに手間取りましたが、艦隊活動を停止させて頂きますよ』
「閣下! ESPレーダーが強く反応しています! エスパーが附近にいます」
「なにっ」

 マッケンジーは固まった。この時点でマッケンジーが不運だったのは、そのエスパーは吉永艦隊が嫌がらせで予備隊の中から連れてきたものと判断してしまったことにある。そうでさえなければ、いますぐにでも対ESP装備を稼動させたはずだ、遅まきながら。

 しかし、ニューメンフィスにエスパーが存在しているとはマッケンジーは想定していなかったのだから、無理からぬことであった。何しろ、マッケンジー艦隊は通信を妨害されているのに、吉永救援隊は整然とニューメンフィスの生存者救助を行っているのである。これで吉永を疑わずに誰を疑えと言うのか。

「貴様! 吉永の手下のエスパーだな。いい加減にしろ!」

 マッケンジーはありったけの声で通信端末に怒鳴りつけたが、返答はなかった。何度も何度も、マッケンジーは怒鳴った。

 返事がこないことを悟ると、マッケンジーは力の限り通信端末を殴りつけた。その様子を見ていた部下たちは、所在なげにうつむいたままだった。

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 機関管制室の開いたドアから、和田が大口径の粒子砲をピタリとシェルミーとサキに向け、片膝をつき射撃体勢に入っている。

「やあ、和田隊長。ようやくお出ましだね」

 シェルミーはサキを強く締め上げたまま軽口を叩いた。和田は、じっと砲身を向けたまま微動だにしない。

「隊長・・・撃って・・・」
「うるさいよ、サキ」シェルミーはたしなめた。「いま、サキと昔話をしてたとこなんだ」
「ぐっ」シェルミーにさらに締められ、サキは息が詰まる。もう、もたないかも知れない。
「見捨てた部下に襲われる気分はどうだい」シェルミーは言った。「ボクは帰ってきたよ。借りを返すためにね」

 和田は一言も発しない。視線を外すことなく、シェルミーに集中している。

「ねえ、隊長。その正義の戦いとやらは、少しは進んでるかい」シェルミーは、サキを締める力を少し緩めた。その代わり、少しづつ、青白いオーラを全身にまとい始める。「この分じゃ、うまくいってなさそうだね。ちょっと遊んだら、皆死んじゃったよ」

「うう、ああああっ」サキはシェルミーの狂気のオーラに直接曝され、激痛に悶えた。

シェルミーは煩そうにちらりとサキを見たが、すぐまた和田を見据えた。「ボクは、お礼を言いたかったんだ。隊長や、サキや、ほかの皆のチンケな戦いから解放されて、地球の新しい友だちと仲良くやれてる」
「シェルミー・・・貴様・・・」
「うるさいなあ、サキ。ボクは隊長と話してるんだ。ね、隊長。確かに天王星は地球のエゴで潰された。何故だと思う」

 室内はエンジン音だけが広がる。騒々しい、それでいて、静かな数瞬が流れた。

「弱かったからさ!」シェルミーは顔を歪めた。「でも、その恨みでやってる天王星のテロも、結局天王星のエゴだよね」

 シェルミーのオーラはやがてシェルミーの周辺を漂う粒子となり、いくつもの球体のナイフとなって実体を象り始める。

「ボクは気づいたんだ。ボクは天王星の戦士シェルミーじゃない。っていうか、シェルミーじゃない。ボクね、ボクはねえ、ボクだったんだよ」
「狂ってる・・・」
「ボクは、こんな雑魚のようなのに、ずっと疑問を感じてたんだ。だから、気づいたんだ。お礼を言わなくちゃね、えへへ」

 和田はじっと肩に担いだ粒子砲を向けたまま動かない。そんな和田に、シェルミーは焦れた。

「隊長はどう思うの。サキを、殺すよ」シェルミーの顔から邪悪な笑みが消えた。シェルミーはいまさらになって、不安に掻き立てられるように首を傾げた。「この!」

 シェルミーが致死のエネルギー球をひとつ、光の筋を描いて和田に放った。和田の周囲に張ったシールドは完璧にそれを弾くと、鈍い紫色の光を放って空間に消えた。

 この時点で、既にシェルミーは負けていた。シェルミーはサキを抱えていた。サキを殺す手間をかけている間に、シェルミーは和田に撃たれる。和田からの攻撃を避けるにはサキを手放さねばならない。

 それにようやく気づいたシェルミーは、途端に不機嫌そうに口をすぼめた。「ほんとに、サキを殺すよ。ボクは、お礼するんだ」
「隊長、斃して! 早く」
「うるさい、サキ、うるさい」シェルミーはその狂気を電撃で満たすとサキを貫いた。「うあああああっ」サキは悲鳴と共に、その力を失った。
「次は、ほんとに殺すよ。隊長はどうなの」シェルミーは伏せ目に隊長を見た。「隊長、どう思ってるの。このボクを」

 和田は息ひとつ変えない。何も答えない。じっと、シェルミーを見ている。

 シェルミーは苛立った。腕の中では、意識を失ったサキが床に小さな血だまりを作ってうなだれている。このままだと、死ぬ。

 小さな牙を剥き、和田を見据えるシェルミーの視界に、一人の少女が飛び込んできた。

「シェルミー! 何をしているの!」
「お、お姉ちゃん!」

 その瞬間、和田が粒子砲を放った。シェルミーは気を奪われていた。和田の砲撃は正確にシェルミーの左腕を付け根の辺りからもぎ取る。

 シェルミーは衝撃で尻もちをついた。その左腕は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて赤い模様を作る。和田が第二の砲撃を浴びせる直前、シェルミーは光に包まれた。

「逃げたか」

 和田は、シェルミーがテレポートで艦外に去ったのを察知すると、粒子砲を肩から下ろした。一瞬の出来事だった。

「何故。何故なのシェルミー」

 床に両手をついて泣き崩れるエイリアを少し見遣ると、和田はサキのところへ歩み寄った。遅れて、平尾と帆足が入ってきた。帆足は、部屋の中に転がる竹下と渡辺の死体を見て、顔を歪めた。平尾は素早く現状を確認し、帆足に指示を出す。

 和田はサキを抱き起こした。浅い息のサキは、薄目で和田を見た。

「サキ。すまない」
「私は・・・」サキの目の端から、涙がこぼれる。
「喋るな」

 和田はサキを抱えると、エイリアに言った。

「戻ろう」

 エイリアは、ずっと泣きじゃくっていた。和田は、サキを抱えたまましばらくエイリアを見ていたが、右腕をそっと掴むと、黙って彼女を促した。その可憐な顔を両手で包んだまま、エイリアは和田の後をついていく。

「作戦を中止。エンジンの損傷を確認後、天王星へ!」

 和田は短く指示を出す。平尾には、その和田の声がいつになく揺れているように感じられた。

「了解」和田の背中に向けて、平尾は心から敬礼した。

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